【第360回】 君かと思いてM. M. (国語)
最近は、君かと思いて、という言葉に胸打たれることが多いです。この言葉は昭和時代の映画の題名にとられていたそうで、中学生だったころの夫は、よくおぼえているというのです。
先月、二学期の古典の学習は、「万葉集」を選んでいました。この「君かと思いて」の出典をみつけることができます。
帰りける人来たれりといひしかば
ほとほと死にき 君かと思いて
<万葉集十五・三七七二>
ゆるされて帰った人が来ているということだったので、あまりの嬉しさにあやうく死ぬところでした。あなたかと思って。帰ってきたと思った時の歓喜が大きかっただけに、そうでなかった時の落胆の甚だしさが想像される。
ほとほと死ぬくらい、ドキッとするのです。
君かと思うのです。
テレビの前にいても、近くを走る救急車のサイレンを耳にしても、ハッとして、君かと思うことばかりです。自分がそんな年齢になったせいもありますし、この頃の自然災害や人間社会の世相がそうであるからです。
─────人によって、君とは? 老いた配偶者かもしれないし、老いた親かもしれない。
君かと思いて・・・・私もそう思う自分に気付くのです。