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2024年9月 5日 (木)

【第851回】「5年ぶりの観戦」H. H. (芸術)

 パリオリンピックに沸いた夏、日本勢の活躍に一喜一憂している最中にも、阪神タイガースが密かに調子を上げてきているのは嬉しかった。春からチケットを予約していて、ようやく取れた京セラドームでの対ヤクルト戦。なんとか3位に喰らい付いていて、ファンとしては見応え充分のまま観戦できる事に安堵した。甲子園とはまた違った雰囲気のホームゲームで、空調が整った中での観戦もまた新鮮だ。席は三塁側の一階の1番奥の席でも、周りは阪神ファンで埋め尽くされている。殆ど空席がなく満席に近い。座席の感覚は甲子園よりも狭い感じがして、肩と肩がぶつかり隣りの熱気が伝わってくる。コロナ禍以来5年ぶりの観戦で、この雰囲気も懐かしく高揚感が増してきた。
 試合はタイガースが全員安打を放ち、先発ピッチャーは最少失点で抑え、順調に7回の攻撃を迎えた。外野の一角のビジター応援席からスワローズの応援歌が流れ始めたその時、隣りの席の男性がゴソゴソと鞄の中から何やら取り出している。ビニール傘を2本。正確には大きい傘1本と、小さい傘が2段に繋がっているもの。思わず二度見して、なんだ?あれ?もしやこの人ヤクルトファンなんだ!と、初めて気がついた。同席している母親らしき人はタイガースのユニフォームを着用していたので、てっきり阪神ファンと思い込んでいた。遠慮がちに取り出した傘は、とても可愛いくて、特に2段に繋がった方は、子供が持って親子で応援できるサイズで、微笑ましい印象。生ビニール傘応援グッズを始めて目にして、思わず見入っていた私に気づいたのか、一緒にどうですか?と。一瞬戸惑ったが思わず手にして応援歌に合わせて傘を振った。後部座席にいた若い男女も(阪神選手の個別応援歌を全部歌えるほどの筋金入りの2人でも)可愛い傘と応援歌に拍手して、その場は和やかな雰囲気になった。相変わらず阪神ファンのヤジは凄いが、こんな一瞬が楽しくて、年に一度の球場での観戦はやめられない。
 今回のオリンピックでも、国を超えて、日本の善戦を応援する地元フランス人の姿が印象的だった。試合では敵同士であっても、相手に敬意を払って、互いを尊重する姿勢は胸を熱くする。

2023年4月20日 (木)

【第779回】「美術の時間」H. H. (芸術)

2023年1月、児童文化II美術3年の最後の授業の日がやって来た。最後の課題として配布したプリントの最後の項目に、I年間の振り返りとして、授業で得たこと、出来たこと出来なかったこと、又は私に対しての手紙でもいいよ、と称して自由に書く欄を設けた。
思い返せば4月当初にアンケートを書いてもらった。希望している進路先や、幼児教育にどんな形で接した事があるかなどの簡単な項目のものだ。あえて大きく設けた回答欄には、わずか一行程度の回答が殆ど。初の授業で私とも初対面でもあるし、お互い緊張気味なので仕方ないかと思い無理強いはしない。
そんなこんなで10か月が過ぎ、保育検定対策の切り絵、立体作品、ペープサート、美術館鑑賞など、実際の保育の現場で実践出来そうな課題に取り組んできた。最後に皆の今の気持ちや考えを知りたくて、設けた課題に恐る恐る目を通してみた。なんと回答欄一杯に、(5、6行割程度の記述、それでも嬉しい)殆どの生徒から回答があった。それもとても前向きな回答が。
美術が苦手で絵を描くのが不安だった、自分で発想し創造するのが苦手だった、など4月当初の不安な気持ちを誰もが綴っていた。しかし、10か月の間に、絵が上手い下手とかではなく、子供達と一緒に楽しんで作る気持ち、子供を楽しませる気持ちを持つことで楽になれた、という考えに傾いてくれた事。そう思う事で美術の時間が楽しくなったと。そんな内容が綴られていた。この時ばかりは教師冥利に尽きるなと思った。更に私に気を遣ってか、感謝の気持ちも綴られていて、ポロリと泣けた。
今頃皆んなどうしているだろう。希望の進路に進み新しい場所で春をむかえているんだろうな。これから色んな試練に立ち向かって生き抜いて行かねばならない事が沢山あると思う。どうか自身を労わり、他人を思いやれる素敵な先生になって欲しい。たまには、高校の美術の時間を思い出してくれたら嬉しい。

2021年10月 7日 (木)

【第700回】 「アスリートの気持ち」H. H. (芸術)

 この夏、賛否両論の中、東京オリンピック、パラリンピックが開催されました。始まればきっとTV、ラジオに釘付けになるであろう、、、案の定、家のBGMはオリンピック一色に。私自身、8月末の展覧会に向けてアトリエに籠る日々ですが、耳はその動向を気にしながらの制作でした。
 この一年半、各種いろんな大会やイベント等が中止延期に追い込まれ、私共の美術活動も大きく影響を受けました。作品の搬入審査も終え、翌日から開催というところで美術館が閉館。そのような事態が2年連続して起こりました。もう誰のせいでも無いのですが、一年間掛けて準備した作品が東京の国立新美術館で日の目を見ることなく、自宅に帰って来るのです。中止延期の連絡がまた来るかもしれない、それでも作品は作り続ける、休む事なく作り続けなければなりません。先の日程が決まればいつでもそこに作品が用意出来る様にです。厚かましいですが、アスリート達もきっと同じ思いなのだろうと、自身と重ね合わせて。そうすると一段と胸が熱くなり、ひとりで気持ちを盛り上げてました。自分を鼓舞するみたいに、です。
 スポーツも絵画芸術活動も、それを披露して発揮する場所や機会がなければ前に進めません。多くの人に触れたり観てもらう事で、人々に勇気や感動を与え、人生の励みになるなど、社会に及ぼす影響力も大きいはずです。そうあるべきだと願っております。こんなご時世だからこそ、それらに携わっている私達は、微力ながらその大切さをお伝え出来れば、と思っています。
 コロナ以降、久しぶりに忘れていた気持ちを思い出しました。悔しがったり喜んだりと。目標や夢に向かって、人生を掛けて頑張ってきた姿に心が揺さぶられてしまいました。彼等の姿が、コロナ禍で多くの方の命を支えている医療従事者や、先の見えない困難に不安を持つ全世界の人々にとって少しでも励みになっている、と願いたいです。私自身も多いに励まされたひとりです。困難を乗り越え、そこに立ち向かった末に学んだことは、全てのアスリートが語った、お世話になった沢山の人への「感謝」という思い。この先の人生において、一番の宝物を得たのかもしれない彼等は幸せだなぁと思いました。そんなアスリートから、私も沢山のことを学ばせていただきました。季節はもう晩秋。私も絵筆を止める事なく、この先何が待ち受けてようとも、目標に向ってコツコツと前に進むのみ!です。