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2009年4月 8日 (水)

【第82回】君のハートに金メダルを尾谷 力 (地歴・公民)

 先日帰宅すると、五歳になる娘の様子がなんだかおかしい。いつもはわけもなくはしゃぐ子なのになんとなく元気がない。

 妻の顔を見て、「どうしたの、何かあったの?」と声に出すことなく聞いてみた。妻も私の言いたいことが分かったらしく、そっと「後でね」とのこと。

 しかし、その直後原因が分かりました。娘が『私、縄跳びきらい』と半分泣きそうな顔で話しかけてきたのです。

 娘:『○○君は14回も跳べる』
 私:『佳保(娘の名前)は何回跳んだの?』
 娘:『…』(また泣きそうな顔)
 妻:『また練習しようね』
 娘:『何回やってもできんもん。もうせん、絶対せん』(逆に怒った顔)
 私:『もう一回だけ、パパに見せて』
 娘:『エ~』(しぶしぶ縄跳びの準備を始める)

 その後、妻が説明してくれました。
 この間から幼稚園で縄跳びの練習が始まったこと。娘曰く、何回練習しても2回しかとべないこと。クラスのお友達は多い子では10回をこえて跳べ、○○ちゃん(うちの子の仲良し=ライバル?)も6回跳べること。跳んだ回数によって先生にシールを貼ってもらう競争をしていること(うちの子のシール1つ。つまりなんとか1回は跳べただけのシールしか持っていない)。

 娘は準備が終わって私達が見ているかどうかの確認もなく猛然と縄跳びを始めました。嫌だと言いながらやはり悔しいのでしょう。しかしその様子は「ドタバタ、ドタバタ」。
なんとか跳ぼうと頑張っているんだけど、素人の私が見てもちょっと回数を跳ぶのは難しい感じです。妻も困った様子で『どうしたらいい?ちょっと見てやって』と言っています。

 その日から、娘と私の特訓の日々が始まりました。

 数日後、『パパ、見て見て!』と娘が飛んできました。娘の胸には誇らしく先生お手製の金メダルがかかっています。裏側には114回と縄跳びを跳んだ回数と今日の日付が記されています。スタートの凹みが大きかった分喜びも大きいのでしょう。金メダルをいつまでも離しませんでした。

 私達両親としては、今回の経験をこれからの彼女の人生に活かしてほしいです。

 と親ばかはさておいて、

 今回もまた娘に教えられました。大切なことは諦めないこと。卒業生を送り出した後また新しい年度が始まります。

 今年は、授業も部活動も…。いや、今年こそは…かな。
 今年こそ、「やればできる」、そんな経験をクラスの生徒や部員達と共にしたいな。

 少しだけ暖かくなった三月の風に吹かれながらそんなことを考えたある日のことでした。

2008年6月11日 (水)

【第42回】新米教師からのメッセージ?尾谷 力 (地歴・公民)

 目標にしていた県総体も終わり、嫁さんに尻を叩かれつつ娘たちと本棚の整理をしました。

 部活動以外にこれといったこだわりもなく、特に趣味を持たない私ですが、「暇な時は何をしてるの?」と聞かれると、積極的に「読書です」と答えないまでも、本を読むのが実は好きです。私にとってのささやかな楽しみは、子どもを寝かしつけた後の僅か20~30分、本を読むことなのです。

 しかし、ここ数年本棚の整理をさぼった結果、棚からはみだした本が床にまで溢れ、読みたい本もなかなか探せない有様となってしまいました。

 整理していくと同じ本が3冊出てきました。2冊だったら「読んだこと忘れて同じの買ったんだ」と反省するところですが、3冊ですから「よほど読みたかったんだな」と感心していたところ、さらに驚いたことにその内の1冊は十五年前に読み終えた本でした。

 題名は『論語物語』、作者は下村湖人。なぜ十五年前に読み終えたものと判明したのかと言うと、赤線が引いてあり、感想みたいなものが書いてあったからです。教師になって3年目、教え子が国体で3位に入賞した年だったので、容易に当時の記憶がよみがえってきました。

 目を引いたのが、『自らを限るもの』と題されたお話に対する自分のコメントです。「私は力が足らないので先生の教えを貫くことができない」と嘆く弟子を、師である孔子が「精一杯やるということは、まず全力で取り組んで見ることだ。取り組んでみて力が足りないのであれば、志半ばで倒れる。倒れてみてはじめて力が足らなかったと判る。お前のように、倒れもしないで力が足らないなどというのは、全力で取り組んでいない証だ」と、励ますお話です。その横に15年前の私は、『努力の結果の国体3位。今の気持ちでやれば全国で勝負できる。自分の力を限らず取り組む』とコメントしていました。

 このコメントは、私をハッとさせるに十分なものでした。それは、一昨年まで6連覇してきた県大会に、昨年は僅差で負けてしまい、現在も狂ってしまったチームの歯車を戻せないでいるからです。そんな私を見かねた神様が、25歳当時の私を通じて、「元気出せ」とでも言われているのかな?などと思いつつ、しばらく整理を忘れて読みふけってしまいました。

 今回偶然再び手にした15年前の本ですが、今だからこそ素直に読み返すことができました。そして、どうしても全国大会に出場したかった、そのためにはどんな努力もいとわなかった15年前の気持ちを思い出し、また、25歳の私から、メッセージをもらったような気がします、「自らの力を限るな」と。

 何もないところから始まった活動、ただがむしゃらな毎日の積み重ねでここまでくることができたのです。大切なことは現状ではなく、何があってもやり通す気持ちだったのです。教師になって3年目の私に、今年18年目の私が改めて教えられた気持ちです。

 さて、このコラムを書きながらも、明日の早朝練習が、生徒たちが待っています。初心に帰ってグランドに立ちたいです。ただ15年前のコメントに一言付け加えて。自らを限らず取り組め、『チャンスは後一回』と。

 我が家の本棚はまだ片付いていません。