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2026年1月 8日 (木)

【第921回】「いやしけ吉事」N. Y. (国語)

『 新(あらた)しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の

いやしけ吉事(よごと) 』

新しい年の初めの初春の今日降る雪のように、
吉事(良い事)もたくさん積もれ

 大伴家持が因幡の国司となって赴任した元旦の宴席で詠んだ歌、万葉集4516首の最後の和歌として収録されている。古来元旦に降る雪は縁起が良いことの象徴とされていて、そのことと勢力を増す藤原氏に対し、衰退していく大伴一族の運命と自身の不遇を憂い、良い方へ向かうよう願う家持の気持ちが詠み込まれているとされる。この歌が詠まれた新年は、元日と立春が重なるさらにめでたい年であり、家持のより一層の思いが重なる。

 2024年元旦の能登沖地震から2年。復興への道はまだまだ遠く、ゴールが見えていないのが現状である。実家への帰途、車窓から見える風景は私が幼少から慣れ親しんできたものとは掛け離れていて、まだ手付かずの家屋や崩れた山肌、地割れしたままの道路、更地になった土地…目にするたびに胸が痛む。20260108_2
それに加えて震災に伴う人口の流出…課題は山積みである。本校生徒にも自分自身を含め、お身内や知人に被災された方が多くいる。それでも救われるのは少しずつ状況が前進していることと、被災地の方々が明るいことだ。メディアで取り上げられることは賛否両論あるかと思うが、話題に上らなくなれば他人事として忘れられてしまう。被災された方々の今の声を見聞きすることは『時』が持つ重さを再認識させてくれる。「あとで」や「また今度」は二度とないかもしれない。だからこそ今を大切にし、巡ってきたタイミングで後回しにせず、やるべきことをやらなければならないと強く思う。
 1200年前の家持が詠んだ和歌のように、人々にたくさんの『吉事』が重なることを願いたい。