【第920回】「実験」中村 裕行 (地歴・公民)
学校の授業で実験といえば、理科を連想する人が多いと思う。ただ、私が教える公民科の新科目「公共」にも多くの実験が登場する。それは思考実験とよばれるもので、「トロッコ(トロリー)問題」が有名であり、教科書などにも紹介されている。
「トロッコ(トロリー)問題」とは、1967年にイギリスの哲学者が論文に発表したのが始まりで、現在ではこのように紹介されることが多い。
→ あなたはレバーを引くべきだろうか? |
なかなか現実には起こり得ないことだが、他の事例として紹介されるトリアージ(大災害などの発生現場で、負傷者に救命の可能性を示す色分けされたタッグなどを付けて治療に優先順位をつけること)の是非などは現実に起こり得ることとして関心も高くなる。
その他、私達の身近では、道路の車線規制を一定時間だけ変えてみたり、役所の受付時間を一定期間だけ変えてみたりなど、社会実験とよばれる実験が行われている。昨年(2025年)9月には鎌倉市で、スラムダンクの聖地を訪れる観光客と地域住民とのトラブルを避けるため、市が写真撮影スポットを仮設して誘導するという実証実験が4日間行われた(実験結果は鎌倉市のホームページに掲載)。おそらく関係者などから、この問題を解決するためにはこのような対策を講じてみればという提案があり、実験に至ったのであろう。また、9月下旬にはトヨタ自動車が静岡県裾野市で、次世代技術の実証都市「ウーブン・シティ」をスタートさせた。こちらはまず関係者2,000人ほどが実際に生活し、2026年度以降に一般の受け入れも見込むという壮大な実験である。
実験を重ねることによって、新たな発見・発展が生み出されるかもしれない。これからの生徒達には、身近な「公共」空間で起こり得る難題を解決するためにはどのような実験を行えばよいか、といった力を身に付けることも求められるだろう。
まずは、個人的な実験を行ってみてはいかがでしょうか。通学路を変えてみる、勉強方法を変えてみる、話しかける人を変えてみるなど、実験テーマは多種多様にあると思います。その先に、新たな発見があるかもしれませんよ…
PS これこそ理科(生物)の領域ですが、最近話題になっている本「僕には鳥の言葉がわ
かる」はまさに壮絶な観察・実験の集大成で、とても面白く読めました。
~2026年が皆様にとって良い年となりますように~

