【第908回】「ヨイトマケの唄」渡辺 祐徳 (英語)
生徒の皆さんに向けて、紹介したい歌があります。それは歌手美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」です。
(ヨイトマケとは、土木作業の現場でのかけ声や,そこで働く人を指す言葉です。)
何かに打ち込んだり、勉強することの大切さや、家族や社会のために一生懸命に働くことの尊さを教えてくれるすばらしい歌です。しかしとても内容が濃く,授業で取り上げようとしても思わず声が詰まってしまい、なかなかうまく話せません。そこでこのブログを使って、その内容をお伝えしたいと思います。
(ここでは歌詞の転載はしませんので,ぜひ美輪明宏さんの歌を聴いてみてください。)
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おそらく父親が病気なのでしょう、とにかく「母ちゃん」が一人で、幼い「僕」を育てるために、ひたすら働く姿から始まります。
「母ちゃん」は、男たちに混じって建設現場で働いていました。重い綱を引き、天に向かって声を張り上げながら、力いっぱい働くその姿は、いつも泥にまみれ、汗と土に汚れていました。真夏の太陽の下、肌を焦がしながらも、ひたすら「僕」が食べるため、そして学校に通えるようにと、文字通り身を粉にして働いたのです。大人になった「僕」が煙草をふかしながら目を閉じると、貧しい土方(どかた)(土木作業員)の歌声が、今も耳にこだまするのです。
「父ちゃんのためなら エンヤコラ!母ちゃんのためなら エンヤコラ!」
幼いころの「僕」は、そんな「母ちゃん」の姿を、時に恥ずかしく感じていました。小学校では、友達から「ヨイトマケの子、汚い子」とからかわれ、悔しさに涙を流しながら帰る道すがら、また「母ちゃん」の働く姿を目にするのです。泥だらけで男たちに混じり、必死に働く「母ちゃん」。その姿を見たとき、最初は慰めてもらおうと駆け寄った「僕」でしたが、涙も忘れ、家へは戻らず学校へ引き返します。そして、心の中で強く誓うのです。「勉強するよ」と。それは、「母ちゃん」の苦労を間近で見て、自分も頑張らなければという、幼いながらの決意でした。
あれから何年もの歳月が流れました。「僕」はあの時の誓いを胸に、懸命に勉強に打ち込み、高校を卒業し、さらに大学へと進みました。そして、今の世の中を支える機械の知識を身につけ、エンジニアとして立派に社会で働くようになっていたのです。
しかし、「母ちゃん」は、その「僕」の成長を見届けることなく、苦労の多い人生の末に亡くなっていました。「僕」は心の中で叫びます。「母ちゃん、見てくれ、この姿を。」と。グレかけた時期も何度かあったけれど、決して道を踏み外すことなく、真面目に生きてこられた。それは「母ちゃん」のあの歌声が、どんな美しい歌よりも、どんな綺麗な声よりも、「僕」を励まし、慰めてくれたからなのです。
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この歌が描く世界観は,昭和初期のある一場面に過ぎず,高校生の皆さんにとって,あまり実感がわかないかもしれませんね。しかし、たくさんのことを教えてくれていると思います。
「母ちゃん」の働く姿を見て,貧困やいじめといった困難をはね返し,「勉強するよ」と誓った「僕」。そして立派に成長した「僕」が抱く,「母ちゃん」への感謝の気持ち。
皆さんがこれからの人生の中で困難に立ち向かうときに、この歌のメッセージが参考になればいいと思います。