【第902回】「みんなの一歩が地域を変える?」S. R. (国語)
特進コースで行っている探究活動の中で、生徒たちに驚かされることがあります。「こんなことにも興味あるんだ」「こんなに調べられるんだ」「こんなに根拠のある考え方ができるんだ」たくさんの驚きがありますが、特にこちらが思ってもみなかった一歩を踏み出してくれる瞬間があり、そのたびに「高校生ってこんなにできるんだ」と感心させられます。
特に印象に残っているのは二人の生徒です。ひとりは、自分で作った炊き込みご飯のレシピをもっと多くの人に知ってもらいたいと考え、地元のスーパーに直接交渉に行きました。津幡町の人に特産品であるまこもをもっと知ってもらい、郷土愛の育成につなげたいという思いからの行動でした。もうひとりは、地域でしばらく開催されていなかったお祭りを復活させ、町を元気にしたいという思いから、町内会長に相談し、さらには町内会の場で自分の意見を発表しました。
二人とも、決して最初からスムーズに進められたわけではありません。紆余曲折を経て、自分なりの「問い」を見つけ、その「答え」を考え、勇気を出して「実行」までつなげてくれました。調査の一環として学校の外の方に取材をすることは比較的よくある取り組みですが、それだけで終わらず、自分の考えを形にし、実際に行動に移した点が本当に素晴らしいと思います。机上の探究にとどまらず、現実の社会に働きかけてみたその姿に、私自身強く心を動かされました。
こうした実践ができた背景には、それぞれがテーマに「自分ごと」として関わろうとした姿勢があります。ただ調べただけの知識ではなく、「自分はこれをやりたい」「地域の人に伝えたい」という気持ちがあったからこそ、勇気を持って一歩を踏み出せたのだと思います。実際、他の生徒の多くは調べ学習的なまとめで終わってしまうことが多いのが現状です。問いを持つことまではできても、それを行動に移すのは簡単ではありません。「実行に移す方法が分からない」「やってみたいけど恥ずかしい」「失敗したらどうしよう」──生徒たちは多かれ少なかれそうした不安を抱えています。だからこそ、勇気を出して地域の大人と関わり、社会の中に飛び込んでいった二人の姿は、同じクラスの生徒たちにとっても良い刺激になったのではないでしょうか。そして、何より教員である私自身にとっても、大きな学びと励ましを与えてくれました。
探究活動は、決して大学進学や進路選択のためだけの取り組みではありません。自分の興味を追いかけ、問いを持ち、考え、そして社会に働きかけてみる。その一連の経験は、たとえ小さな一歩であっても、これからどんな道に進んだとしても必ず生きてくる力になると信じています。これからも、生徒たちの中に眠る好奇心と可能性を信じて、一緒に学びを積み重ねていきたいと思います。そして、いつの日かみんなが大人になったときに「高校時代に挑戦したあの経験が、自分の人生にとって大切なものだった」と振り返ってくれることを願っています。