« 【第848回】「出会い」 | メイン | 【第850回】「心にズキューン!」 »

2024年8月22日 (木)

【第849回】「日本語を教えていると・・・・・・」西村 美恵子 (英語)

 遊学館高校でケニヤからの留学生に日本語を教え始めて4年になります。
日本語を教えるとはどんなことをしているのだろう、と思ったことはありませんか。
私の日本語教室では、はじめに、日本語の簡単な挨拶の言葉と、身の回りの事物、動作、様子を表す言葉など日常生活で出会う言葉(名詞、動詞、形容詞)を学びます。日付、時間、曜日は学生の生活ではすぐ必要となる事柄ですので、数の読み方、月の言い方、日にちの言い方(一日から十日までがとても難しい)、曜日の言い方を練習します。天気を表す言葉も暮らしには欠かせません。言葉を学ぶと同時に、それらを用いて質問に答える練習もして、簡単な文を言う練習をします。しばらくは日本語を音だけで学習します。日本語の母音は数が少ないほうなので難しくはありませんが、「っ」や伸ばす音、高低アクセントがあり学習者には難しいものです。そのあと、文字の学習をはじめます。ひらがなとカタカナを読む練習をして、文を読めるようにします。そうすれば、テキストを読んだり、問題を解いたりができます。
 ここで思い出してみてください。私たちはどうやって日本語を学んだのでしょうか。おそらくほとんどの人が小学校入学前にひらがなとカタカナを書く練習をしたのではないでしょうか。中には少し漢字を勉強している子もいたかもしれません。つまり日本に生まれ、育った私たちは、日本語の文字の練習を生まれてから5~6年で始めますが、そのころには幼いながらもみな日本語を聞いたり話したりできるようになっています。確かに語彙数はまだまだ少ないですが、日本語を使えます。どうやって身に付けたかさえも覚えていないけれども、聞いて理解できて、話すことができる、それが母語というものです。母語話者が、学習ではなく、習慣の積み重ねで(長い時間慣れ親しんで)身についてしまった言葉の使い方、これがそれを外国語として学ぶ時にはとても難しいところになります。
 日本語の初級学習者が特に難しいと感じるのは、日本語の助詞(が、の、に、を、と、へ、で、は…等々)の使い方と動詞の活用だと思います。例えば、“ わたしは かぞく(1   )とうきょう(2  )しんかんせん(3  )いきます。” 1~3に助詞を入れて文を完成させるという問題。私たちにとって当たり前すぎて考えるまでもないことなのですが、助詞は使う時の意味(何を示すためのものか)が複数あるので、初級学習者は混乱してしまうようです。また動詞の活用では 例えば“こないで”“きます”“くれば”“くる時に”“こっちにこい”。これらも日本語を母語とする私たちは難なく言えますが、型(パターン)があっても動詞の数が多いですから、学習者は何度も口にして、耳でも覚えることが必要なのです。
 日本語を教えていていつも思うことは、自分が日頃当たり前に使っている母語をいかに知らないか、言葉の説明をすることがいかに難しいかということです。日本語を教えているとたくさんのことを気付かせてもらっています。