【第677回】 「声の記憶」嶋田 司 (数学)
人の声や話し方が記憶と強く結び付いていると思った出来事が二つある。
一つは会議のためある公立高校に行ったときの出来事である。会場となった高校の校長先生の挨拶を聞いた瞬間,高校3年生の現代文の授業風景が頭に浮かんだ。校長先生は私が高校時代に習った国語の先生だった。男性ながら優しい声で,話し方にも特徴があり大変聴きやすい授業だった。校長先生の挨拶を聞きながら20年以上も前の授業を思い返していた。
もう一つは逆に気付いてもらった出来事である。あるお店のカウンターで食事を済ませ会計をしようとしたとき,店主から「S先生ですよね。」と声を掛けられた。残念ながら,店主の顔を見てもまったく思い出せなかった。話を聞くと,私が初めて非常勤講師として勤めた公立高校で教えた生徒であることが分かった。30年以上も前の週4時間ほどの数学の非常勤講師をよく覚えていたなと驚いたが,声で分かったそうだ。
自分が意識していない聴覚情報が脳内にまだまだ埋もれていそうです。