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2020年11月 5日 (木)

【第653回】 「ラウンド・キャラクターであるように」和田 康一郎 (国語) 

 小説の登場人物を、イギリスの作家E・M・フォスターは2種類に分類しました。フラット・キャラクターとラウンド・キャラクターです。前者は小説中で変化しない人物、後者は変化を遂げる人物です。人間的成長を遂げる人物も、後者に当たります。
 成長する人物の代表例は、太宰治「走れメロス」のメロスです。えっ、フラット・キャラクターでは?と思った方もいるかもしれません。そういう人は、中学校の教科書等で読み返してみましょう。
 メロスは最初は優れた人物ではありません。王に怒るとその足で城に侵入し、捕まって死刑を命じられます。そうなって初めて、妹を結婚させるまで死ぬわけにはいかないと思い当たり、親友を身代わりに人質にして、村に向かいます。この辺りのメロスは、中学生にも馬鹿にされるような、自称の勇者に過ぎません。
 ところが、間に合うか否かわからない状態で、必死に駆け続けるうちに、メロスは変わります。結果は問題でなく、人の信頼に応えるべく最大限の努力を続けることが尊いと悟るに至ります。結末では、語り手がメロスを「勇者」と呼んでいます。自称の勇者が本物の「勇者」と認められるまでに、人間的に成長するのです。
 「走れメロス」をクサい友情物語と貶める向きがありますが、現在は同意する人は少ないでしょう。(むしろ、人の成長が分からない人だと、白い眼で見られるかもしれません。)その理由は、日本でオリンピックが行われる予定だからです。結果は分からないけれども、応援に応えるべく最大限の努力をしているアスリートが、数えきれないほどいて、現在でも各地で頑張っていることでしょう。メロスの激走は、そんなアスリートたちの努力と重ね合わせて読むこともできると思います。
 遊学館で学ぶ皆さんが、将来人間的に成長していける、ラウンド・キャラクターであることを、祈っております。