【第423回】 愛してるぜ、遊学!Mi. Y. (英語)
「愛してるぜ、遊学!」これはサッカーの試合中に、その試合には選手として出場が叶わなかった部員たちが、ピッチで戦っている仲間の選手たちに向かって歌う応援歌の一節です。今回、私はこの言葉、「愛している」について話したいと思います。私は以下の話を、生徒たちとりわけ年度初めの新しい生徒たちに対して話すことがあります。日本語・英語・フランス語の共通点や相違点に目を向けさせ、言語学に対する興味を持ってもらいたいからです。
はじめに、上記3ヶ国語(日・英・仏語)でほぼ同じ内容(言語学の用語で所記)を表している表現(言語学の用語で能記)を見てください。
日本語 : 私はマリーを愛しています。 S+O+V
英語 : I love Mary. S+V+O
フランス語 : J’aime Marie. S+V +O
右側に示した文の3要素から、2つのことがわかります。まず3ヶ国語とも主語(S)が文頭に在るという共通点です。次に目的語(O)と動詞(V)の関係が日本語と他の2ヶ国語では異なるという相違点です。この相違点については私の英語の授業でもよく強調するところです。大部分の生徒たちは、何もあらためて言われることでもない、と言いたげな表情をして聞いています。
さて次に、前述の3つの文中の固有名詞を代名詞に置き換えてみましょう。
日本語 : 私は彼女を愛しています。 S+O+V
英語 : I love her. S+V+O
フランス語 : Je l’aime. S+O +V
ここでl’ は女性名詞 Marie を受ける女性代名詞の目的格 la が、次に続く動詞 aime が母音で始まっているためla の a が省略されたものです。
右側の文の3要素の関係から興味深いことが明らかになります。固有名詞での場合とは違って日本語とフランス語ではOとVの前後関係が一致しているのです。すなわちこの2つの言語では目的語の代名詞は動詞の前に置かれるのです。一方英語においては3つの要素の文中での位置関係を見ると、固有名詞の場合と同様に目的語の代名詞は動詞の後に置かれます。
以上の点から文の構造と言う点においては3ヶ国語の中で英語が最も安定していると言えるでしょう。フランス語では固有名詞と代名詞では動詞との位置関係が異なるという複雑さがある点で、特にフランス語の学習では難しい障害になります。
ところでこの小文の表題です。「愛してるぜ、遊学!」ですが、ここには主語は表現されていません。しかも目的語(=遊学)は動詞の後に置かれています。つまり文の3要素であらわすとすれば、 ゼロ+V+O となります。これらは私がここまで述べてきたことと全く矛盾しています。そしてこのように規則性の無いこと、あるいはあってもごく限られていることが日本語の最大の特徴と言えます。日本語は通常、助詞の助けが無ければ正しい情報を伝達することは困難です。日本人が英語を勉強する際には英語の規則性を理解しなければいつまでたっても「猿まね英語」しか身に付かないだろうと考えられます。
私は英語を教える者として、「これは試験に出るから覚えなさい。」と言って生徒に丸暗記させるようなことはしたくありません。理論的に正しい英文を組み立てられる力を付けて欲しいと考えています。現実にはなかなか難しくて苦労の連続ですが、生徒たちがやがてはわかってくれるだろうと信じています。