「時代の振り子」という言葉を聞いたことがありますか。世の中の流行や価値観は時代によって大きく変化します。かつては常識だったことが、時が経つにつれて古くなり、全く逆の考え方が主流になることがあります。まるで振り子が左右に大きく揺れるように、世の中の風潮も極端から極端へと変化していく。この現象を「時代の振り子」と呼びます。
例えば、現代社会ではインターネットの発達により、若い世代が上の世代に対して批判的な意見を持つことが目立ちます。「昭和の考え方は古い」「年長者の言うことは聞く必要がない」といった意見を目にする機会も少なくないかもしれません。中には、年配の方々を「老害」と呼ぶような心無い言葉を使う人もいます。
しかし、少し立ち止まって考えてみましょう。今、若い人たちも、いずれは年を取ります。その時、今の自分たちの言動がどのように評価されるでしょうか?自分が若い頃に批判していた世代と同じ立場になった時、初めて当時の人々の気持ちや状況を理解できるのかもしれません。今は令和の時代ですが、平成の考え方ですら過去のものとなりつつあります。時の流れの中で、価値観や常識は変化していくのです。そして、世の中は過去の姿に完全に逆戻りするわけではありませんが、極端な状態からバランスを取り戻し、より理性的な中庸な状態へと向かうのではないでしょうか。
近年マスコミは高齢者の交通事故を頻繁に取り上げ、若い世代を中心に「高齢者から運転免許を剥奪すべきだ」という意見も出ています。もちろん、高齢者の運転による事故は深刻な問題であり、対策が必要なのは事実です。しかし、客観的なデータを見てみると、交通事故を起こしている割合が最も高いのは、実は19歳から24歳の若者なのです。さらに、最近では高校生や主婦を含む自転車による逆走や事故も大きな問題となっています。この現実に目を向ければ、「高齢者だけが危険だ」という一面的な見方がいかに偏っているかに気づくはずです。そして、若い世代の人たちも、安全運転を心がけなければならないという意識が生まれてくるでしょう。
また近年では、「パワハラ」や「セクハラ」と言う言葉を、本来の意味を越えて安易に使い、「モラハラ」「マタハラ」「スメハラ」など日本独自の言葉を作り出してまで、他人の言動を過度に制限し、人間関係がぎくしゃくすることがあります。
しかし単に自分が嫌だと思う他人の言動をハラスメントと決めつけるのではなく、言葉の定義を正しく理解するように「時代の振り子」が振れれば、客観的な視点でお互いの人格を尊重し合うことができるでしょう。(もちろん相手の言動が常識の範囲を超えていないことが前提ですが。)
このように、世の中の考え方は、まるで振り子のように極端から極端へと揺れ動きます。大切なのは、その時々の表面的な情報や流行に流されず、物事を多角的に見ることです。一つの側面だけを見て判断してしまうと、本質を見誤ってしまう可能性があります。
なぜこのような「振り子」現象が起こるのでしょうか?それは、人間の思考や行動が、常に理性的な判断に基づいているとは限らないからです。感情や時代の空気、集団心理などに影響され、極端な方向に偏ってしまうことがあります。しかし、時間が経ち、状況が変わるにつれて、その偏りに気づき、反省し、修正しようとする力が働きます。その結果、振り子は反対方向へと揺れ動き、最終的にはよりバランスの取れた状態へと落ち着いていくのです。
この「時代の振り子」の考え方を理解することは、私たちがより良い判断を下すために非常に重要です。物事を一面だけで見ていては、真実を見失い、誤った結論に至ってしまう可能性があります。例えば、歴史を学ぶことは、過去の出来事を通して時代の流れや人々の考え方の変化を理解するのに役立ちます。過去の過ちから学び、同じ間違いを繰り返さないようにするためにも、歴史を学ぶことは重要なのです。
また、様々な分野の書籍を読んだり、異なる意見を持つ人々と積極的に議論を交わしたりすることも、視野を広げる上で非常に有効です。自分の考えと異なる意見に耳を傾けることで、自分の考え方の偏りに気づき、より客観的な視点を持つことができるようになります。インターネットやSNSは情報収集に便利なツールですが、情報が偏っている可能性もあるため、鵜呑みにせず、批判的に吟味する姿勢も大切です。
情報が溢れる現代社会において、物事を一面だけで判断してしまうのは簡単です。しかし、それでは本質を見失い、誤った判断をしてしまうかもしれません。高校生の皆さんには、ぜひ広い視野を持って物事を捉え、多角的な視点から判断する力を養ってほしいと思います。そのためには、日々の勉強を大切にし、様々なことに興味を持ち、積極的に学ぶ姿勢が重要です。教科書だけでなく、新聞やニュース、ドキュメンタリー番組など、様々な情報源に触れることで、視野は大きく広がります。
そして、何よりも大切なのは、自分の頭で考え、疑問を持つことです。「なぜそうなるのか?」「本当にそうなのか?」と問い続けることで、物事の本質に迫ることができます。
皆さんが、広い視野と柔軟な思考力を持った大人へと成長していくことを心から願っています。