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2010年5月26日 (水)

【第134回】発見中村 ゆかり (国語)

 新緑が目にまぶしい季節を迎え、梅雨入り前のさわやかな風が校内にも吹き渡っている。
少し前のことになるが、ゴールデンウィークに帰省をした。
この時季に実家に帰るというのは、ここ十年余りかなえることができないでいた。
親に言わせれば、こちらの事情など関係ない。
「二日も三日も休みが続くのに、なぜ帰ってこられない?」なのである。
申し訳ないかぎりであるが「忙しい」の一言で済ませてきた。
とは言うものの、「たまに帰る」というのはいいもので、新しい発見が数々あった。
我が家の庭に「しだれ桜」が一本。いつのまにか、父が植えたらしい。
兼六園の桜はとうに散ってしまったが、気温の差もあってか、今がまさに満開である。
五月の陽の光りを浴びて、小さく可憐な花びらは、やわらかな桃色を放つ。
そして透き通る青い海。やはり自分の生まれ育った場所はエネルギーを与えてくれる。

 「桜」といえば遊学館の通りに面した旧木造校舎があった敷地内に、その木が数本あった。
ある朝早く通勤の途中で通りかかり、目の前に起こっている光景にただただ驚いた。
桜が軸ごと五弁の花びらその形のままに、くるくると散っているのだ。
桜の花の散り方といえば、花びら一枚一枚が風に乗って散ってくるものだと思い込んでいた私には心が躍るような発見であった。
「なんて美しいんだろう!」
花にとっては当たり前の営みなのだろうが、
私にとっては自然の凄さを改めて思い知らされる出来事であった。

 本校には、親元を離れて学校生活を送る寮生が多数いる。
野球、サッカー、卓球、駅伝…とそれぞれの分野で日々、鍛錬を重ねている。
早朝から放課後遅くまでの練習に加えて、休日の大会・遠征など、
いつ休んでいるのだろうと思うくらいだ。
たまには家族と何気ない会話を交わし、くつろいだ時間を過ごしたいと思うこともあるだろうに、
自分の夢に向かって邁進(まいしん)する『若い力』は私たち教員にも力を与えてくれる。
 時に自分の思い通りに事が運ばず、いら立つこともあると思うが、仲間がいることを忘れず、
家族を初めとして支えてくれている多くの人々への感謝を胸に頑張ってほしい。
そして「遊学」しているこの土地・歴史ある学舎でたくさんの発見をして、
一回りも二回りも大きな人間に成長してほしいと思う。

2009年10月21日 (水)

【第105回】希望中村 ゆかり (国語)

 一雨ごとに寒さが増す季節を迎えた。
高校3年生にとっては、それぞれの進路を選択しなければならない人生の岐路に立たされる時期でもある。

 先日上陸した台風は列島を縦断し、各地に様々な爪あとを残した。
予測していたほどではなかったにしろ、農作物には大きなダメージを与え、交通機関はマヒした。県内でも突風にあおられ、樹木が倒れたり、小中高のほとんどの学校が休校の措置をとった。昨年の浅野川の氾濫といい、近年の災害は温暖化の影響もあってか集中的な豪雨や、竜巻といった激しい様相に変化しているように思われる。

 1991年に日本を襲った「台風19号」は、津軽地方全域にわたって大きな被害を与えた。特産品を生産しているリンゴ農家にとっては、死活問題となるほどの打撃であった。手塩にかけて育ててきたリンゴの実が、あたり一面に無残な姿で転がっている。その様子を目の当たりにした人々の気持ちは、どんなに辛かったことであろう。

実際に再建を断念して生産農家を辞める人もあったそうだ。しかし、その危機を救ったのは、ほかならぬ「リンゴ」であった。台風の後、木に残ったものを「落ちないリンゴ」と銘を打ち、
全国の受験生に向けて販売したのである。「リンゴ」は飛ぶように売れ、農家に希望が生まれた。窮地に立たされても負けることなく、努力と工夫を重ねる姿勢には頭が下がる。

 本校の3年生もそれぞれに本番を迎えつつあり、就職試験や、推薦入試に向けての準備に余念がない。終礼後に面接練習をしたり、志望動機を文章にしたりと、遅くまで残って奮闘している。

早朝、放課後と時間を惜しんで毎日質問をしに職員室にやってくる生徒には先のリンゴ農家ではないが、本当に頭が下がる。自分自身の進路なのだから当然のことをしているわけではあるが、先生方の指示を仰ぎ、努力を重ねる姿を見るたび、晴れて自分達の希望する進路に進んでほしいと強く感じる。

 ともあれ、台風一過の青空は、まさしく秋晴れそのものである。
これから本番を迎える受験生達の前途にエールを送ってくれているかのようで清々しい。
彼らの努力が報われ、朗報をもたらしてくれることを心から祈りたい。