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2010年3月 3日 (水)

【第123回】一期一会牛腸 尋史 (英語)

 世の中には様々な職業があるが、教師というのはその中でも、四季の移り変わりを最も実感できる職業のひとつではないかと思うことがある。

春には入学式、初夏の体育祭、夏の高校野球と夏休み、秋には学園祭と入試シーズンの始まり、冬には冬休みとセンター試験、そして最後が卒業式である。

 卒業式が行われる3月1日は、遊学館高校の教師にとって特別な日だ。
この1年であったことや、以前に送り出した生徒たちのことなど、色々なことを思い出す。
生徒たちの涙や晴れやかな笑顔を見ていると、こうやって多くの人たちの人生の大きな節目に立ち会うことができるのは、とても幸せなことだと思う。

 初めにも書いたように、学校では、1年を通じて様々な行事が行われる。
私は教師になって23年が過ぎようとしている。
だから、今日は私が教師になって23回目の卒業式だ。
入学式も学園祭も体育祭も、同じように23回経験してきた。

 私は時々自分に言い聞かせることがある。
「卒業式に限らず、学校で起きるすべてのことが、そして毎日の出来事が生徒にとっては『一生に一度』の経験なんだ。」

 4月に多くの新入生を迎え、また色々な行事が行われる。
しかし、それらを24回目の行事ではなく、24年目の私が生徒と一緒に経験する「一生に一度の出来事」であることを忘れずにいたい。

偶然ですが、今年の卒業式で卒業生総代の久保君も言っていた「一期一会を大切にする気持ち」で新たな一年を過ごしていきたい。

2009年5月13日 (水)

【第85回】Not for today, but for tomorrow牛腸 尋史 (英語)

Viewimg0 朝6時20分、金沢駅では、登校する高校生たちの姿をたくさん見ることができる。その中には、もちろん遊学館高校の生徒もいる。バトントワリング部、サッカー部、女子バレーボール部など、運動部の生徒が電車を降りて自転車やバスで学校に向かおうとしている。

そして、6時44分に金沢駅を出発し幸町に向かうバスには、運動部員だけでなく、ゼロ限目(毎朝8時に始まる特別進学コースの授業)を受ける生徒も乗っている。生徒たちは、7時前には学校に到着し、それぞれの目標に向けた地道な努力に取りかかるのだ。

 6時50分、女子駅伝競走部はすでに学校周辺を走り、サッカー部の朝練習が始まっている。7時にはバトントワリング部と女子バレー部の生徒が部室の鍵をもらうために、職員室にやってくる。7時過ぎには男子卓球部の練習が始まり、女子卓球部が特別活動棟前を掃除する姿も見られる。この姿は、1年間、春夏秋冬を通して変わることはない。

 午後3時30分、終礼が終わると図書室と新しくできた進路指導室のガギを開けることが今年の4月から私の日課になった。平日は夜8時まで、土曜日は夕方5時まで開放して学習室として利用できるようにしている。終礼後すぐにやっている生徒もいれば、7限目や補習を終えて5時過ぎにやって来る生徒、そして部活動を終えて夜7時にやってくる生徒もいる。それぞれが自分の時間を工夫しながら勉強に取り組んでいる。そして、4月から現在まで、8時前に図書室の電気が消える日は1日もない。

 8時を過ぎても、卓球場からはカーテン越しに明かりがこぼれ、男子卓球部の生徒たちが練習する声がまだ聞こえている。部活動ではチャンピオンを目指し、勉強では進路実現を目標に、生徒たちはそれぞれが自分のステージで必死に戦っている。成果は、大会や受験で結果として示される日が必ずやってくる。しかし、その結果は時として、それぞれにとって不本意な時もあるはずだ。でも、彼らのひた向きな努力は、その先に続く人生の中で、きっと大きな財産となり、様々なかたちで成果となって活かされる場が必ずあると確信している。

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2008年7月23日 (水)

【第47回】POWER TO MAKE DREAMS COME TRUE牛腸 尋史 (英語)

 今年の春にも3年生420人が卒業していきました。私自身もクラス担任を持っていましたので、とても思い出深い卒業式になりました。今回は、私が担任をした42人の子どもたちではなく、他のクラスのある生徒のことをお話ししたいと思います。

その生徒との出会いは1年生の学年末でした。卒業式も終わって2年生が研修旅行に出かけている間に、英語のピンチヒッターとして教室に行ったことがきっかけでした。授業の途中で初めて話しをした時、「中学校の時から英語が苦手で、全然わからない」と言ってきました。私は、「まだ1年生なんだから、今からでも十分挽回できるよ」と答えたように思います。するとその生徒は「本当に?」と、幾分疑いの眼差しで私に聞き返してきました。

 翌日、私はその生徒に中学の総復習をするための問題集をプレゼントしました。それからその生徒との問題集のやり取りが始まりました。それこそbe動詞の使い方から始まり、新しい文法を説明し、その後で問題を仕上げてくる。1週間に1回か2回はそれを繰り返していたと思います。

正直、「最後まで続くのかな」とも思うこともありましたが、その子は決してあきらめませんでした。「私はできる!」と、魔法の呪文のように、自分自身にそう言い聞かせながら頑張っていました。何があっても英語の勉強だけはやめませんでした。

 2年生の夏にはその問題集を完成し、中学の復習を終えました。その後は、英単語帳を使って語彙力の強化や大学入試用の問題集に挑戦するようになりました。

私以外にも、いろいろな先生に協力してもらいながら2年生では英語検定の3級に合格し、3年生になってからは準2級にも挑戦しました。6月の試験で筆記試験に見事合格!でも、面接試験は残念な結果に…。10月の面接試験に再チャレンジ!私もわが子の合格発表のようにドキドキしながら結果を待っていました。しかし、またしても残念な結果に・・。

それでも、その子はあきらめませんでした。

卒業式を間近に控えた2月のラストチャンスにかけて、3年生がみんな自宅待機している間でも、学校に来て面接練習に取り組んでいました。そして、卒業式を終えた3月のある日、学校に合格を知らせる通知が届きました。

担当の先生から見せていただいた通知は、カタカナで記されたその子の名前と「合格」という文字がタイプされた簡単なものでした。しかし、その子が積み重ねてきた多くの努力を感じるとこができ、どんな名文よりも私を感動させる力がありました。「もっと英語を勉強して、留学もしたい」と、新たな目標を持って、その子は遊学館高校を巣立っていきました。

 私が所属する進路指導部は、生徒それぞれが自分の希望進路に応じ、県内の大学や短大、専門学校などを訪問する「学校見学」や、上級学校の先生方から勉強内容につて話を伺う「進路ガイダンス」など、様々な行事を実施しています。「百聞は一見にしかず」つまり、「見て、知って、実感することが未来を切り開くエネルギーになる」と思います。

人は目標を持つことで、それまでの自分には思いもつかないようなパワーや才能を発揮することができると信じているからです。今春卒業したその生徒ように、自分の未来を切り開くきっかけになって欲しいと願いながら、進路行事を計画しています。

2007年9月12日 (水)

【第5回】GREEN IN YUGAKKAN牛腸 尋史 (英語)

 遊学館高校の敷地は木々に溢れている。

 桜やザクロ、銀杏、金木犀、藤、そして松など、実に様々である。初めて高校を訪問された方からよく伺う声に、

「街中にあって緑が豊かな環境ですね。」

というものもある。

 春には生徒門の脇で桜たちが薄桃色の花で新入生を迎え、秋にはバスケットコート前から第2学館に向かうたびに、金木犀が甘い香りが漂わせている。狭い校舎の中にいても、様々な木々が豊かな彩りや香りで私たちに季節の移り変わりを教えてくれる。

 そう言った木々の中でも、敷地中央に泰然と立つ榎(えのき)は、やはり遊学館高校のシンボルではないかと思う。風が通り抜けるたびに枝葉をサワサワと鳴らす様子からは、自然の雄大さと包容力を感じる時もある。

 100年以上にわたって金城学園の生徒達を見守ってきた。

 一体何百、いや何千人の高校生がこの木の下で昼食を食べ、語らってきたのだろうか。もし、榎と話す言葉があれば、どんな話しを私に聞かせてくれるだろうか。

 100年前に瞳を輝かせ金城遊学館の門をくぐる女学生の姿。戦時中に校庭で農作物を栽培しながら汗を流す女学生たち。

 そして、共学になった遊学館高校で過ごす現在の生徒達のことは、どんな風に話してくれるだろか。尽きることのない思い出をいつまでも話してくれることだろう。そんなことを想像するだけでも、楽しくなってくる。

 遊学館高校が緑豊かでいられるのは、「本多の森」と「犀川」の役割が大きいのでないかと思うことが時々ある。遊学館高校の木々は、豊かな本多の森と地中深く根を結び、犀星が「美しき川」と謳った犀川から水を受けて伸びやかに育っているのではないかと。

 それはまるで、彼らが金沢の豊かな自然と遊学館高校を結びつけているかに思える。毎日何気なく過ごしている校舎のあちこちで、季節の移ろいと共に姿を変えながら、草木たちは今日も遊学館高校を静かに見守っている。

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遊学庭の榎 その1
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遊学庭の榎 その2