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2014年9月25日 (木)

【第345回】 「原点」中村 ゆかり (国語)

 9月3週目の連休に、第16回北信越高校生文芸道場に参加した。運動部と違って、競って順位がつくというものではないが、北信越地区における文芸の新人大会に当たる。二日間にわたって開催され、北信越地区(福井、富山、長野、新潟)から多くの文芸部に所属する高校生たちが一堂に会した。本校の文芸部員は人数が少なく、日頃の活動もかなり制限された形で行っているため、1年生にとっては初めての大きな大会となる。参加するためには必ず文芸作品を出品することが条件で、今回、参加するまでの準備を含めて生徒たちが得たところはとても大きかったと感じさせられた。

 大会初日は文学散歩からスタートし、近代文学館と21世紀美術館を訪問した。文学館では三文豪を始め、県にゆかりのある作家たちの生い立ちや作品集などが展示されており、改めて認識する内容も多々あった。またその後の交流会では、公立高校の実行委員である生徒たちが様々な工夫をし、二日目の研修に向けて、より一層充実した活動となるように親睦を図るプログラムを用意してくれた。毎年、開催県の実行委員となる高校生たちの企画で文学的要素を絡め、趣向を凝らしたグループエンカウンターが行われる。その活動を通して、参加者同士の距離が少しずつ近づいていく。二日目は各部門に分かれて、事前に提出した作品を評価したり、当日、課題を与えられて創作をするという活動を行った。本校の1年生二人は、日頃教室でも発言が少なく目立たない存在で、上手く活動に参加できるか不安はあったが、自分の考えを自分の言葉で第三者に伝えることが出来ていた。俳句部門に参加した生徒は、部門に参加する人数が少なかったこと、指導講師の先生が適切なアドバイスをしてくださったことが相乗効果を生み、活発に意見交換が出来ていた。何より、二人の1年生の知的好奇心に満ちた生き生きとした表情が印象的であった。本当に「いい顔」をしていた。

 同じ週の遊学講座、巡回先のクッキングスクールでの校長先生のお話に、御自宅で60年育てていらっしゃるマスカットのことを伺った。農家のように、こまめに手入れをしていないが毎年必ず実をつけるそうである。昨今は果物に限らず、甘みの強い食材が店頭を賑わわしている。どうやら物によっては甘さを引き立たせる肥料を与えてあるらしい。そんな中で、当たり外れはあるが「自然の味、おいしさ」を味わって欲しいとのお考えから、受講している生徒たちに「おすそわけ」をしてくださった。これから「食」は作ることも食べることも「原点」に戻っていくという言葉とともに。

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 文芸道場での生徒たちの自然な表情・笑顔を見たとき、創作も自分自身を掘り下げていく、原点に向かっていく活動だと再認識した。その活動を通して一回りも二回りも「おいしい」人に成長して欲しいと思う。