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2009年9月 2日 (水)

【第99回】留学とは…道上 ちひろ (英語)

 今日、交換留学生としてカナダから女の子がやって来ました。
彼女は1年間遊学館で日本語、日本の文化、それ以外にも多く学ぶことになります。
自らが生まれ育った土地を離れ、家族や友人と別れてきた彼女には、寂しさや不安な表情は全くなく、新しい土地での生活に期待を膨らませていることが手に取るように感じられました。

 彼女の姿を見ていると、私自身が大学時代にアメリカで過ごしていたことを思い出しました。
念願だった留学が現実となり、意気揚揚とアメリカへ向かいました。
しかし、期待とは裏腹に英語が思うように話せない、聞いても理解できない、英語を勉強しに来たのだから、アメリカ人以外とは話したくない。新しい文化には馴染めない、食べ物は油まみれ、待てどもバスは来ない…。なんでこんなところに来てしまったのだろうという、後悔ばかりの毎日が続きました。

 そんなある日、同じ授業を受けていた韓国人の女の子が話しかけてくれました。
「私のアパートでパーティーをするんだけど来ない?」
そう誘われて、おもいきって行ってみました。そこには、彼女をはじめ、アメリカ人、ブラジル人、トルコ人、アラブ人など様々な国の人たちが来ていました。

 そこで、私の留学生活を大きく変える出来事が起こりました。
それぞれ国籍も言語もちがう10人余りの人々が、英語というひとつの言語でつながっているのです。ある時は一斉に大笑いし、ある時は、真剣な表情で相手の話に耳を傾ける。またある時は、共感し、大きくうなずく。言葉の持つ力を心の底から実感した瞬間でした。言葉が通じれば、心も通じあえるのです。心が通じれば共感が生まれ、喜びにつながるのです。

 このことをきっかけに、私のアメリカ生活は大きく変化しました。
自分から、多くの人たちに話しかける、聞き取れなくても何度も聞き返す、新しい文化も受け入れるように努力する。それからは、多くの友人ができ、会話も上達していきました。たくさんの人たちに出会い、様々なことを学び、私の人生にとってかけがえのない経験となりました。

 1年間というのはあっという間で、別れの時が近づいたある日のことでした。
初めて、私をパーティーに誘ってくれ、ずっと仲良しだった彼女は私に言いました。
「私は、おじいちゃんに小さいころから、日本人とは仲良くしてはいけない、日本人は韓国人にひどいことをたくさんしてきたんだよ、といわれてきたの。」
「でも、ここで、あなただけでなくたくさんの日本人に出会えて本当によかった、私は日本人のことが好きになれたから。」

彼女のその言葉を聞いたとき、”留学”という言葉の本当の意味を知ったような気がしました。留学とは、その国の言語を学ぶこと、と思っている人は少なくないと思います。しかし、留学とは言語や文化を学び、そこから、心を通わせ、お互いを理解し合うことなのかもしれません。

 今回、カナダからやってきた彼女にも、1年を通し、自分にとっての留学の意味を見つけてもらいたいと願っています。

2008年11月 5日 (水)

【第62回】デコレーション奮戦記道上 ちひろ (英語)

担任:『みんな、学園祭企画で、この円筒校舎をデコレーションケーキにしない?』
生徒:『・・・・。』(この先生、何を言っているんだろう、という雰囲気)
担任:『みんなが勉強しているこの校舎は54年前に建てられて、それが来年取り壊されるんだよ。だから感謝の気持ちを込めて、バースデーケーキみたいに飾り付けしたらどうかなぁって思って。』このように、生徒たちの協力が得られるのかもわからないまま動き始めた企画でした。

牛乳パックの回収を全校生徒に呼びかけ、2500枚もの牛乳パックをつなげた壁面の生クリーム、チョコレート板に見立てられたメッセージボード、直径2メートルのいちご。これらの巨大なパーツを作るのに要した時間や、生徒たちの労力は想像以上のものでした。役割ごと、グループに分かれ汗とペンキまみれになりながらの準備が続きました。

その中で最も印象深かったことは、猛暑の中、牛腸先生、女子生徒2名と共に、いちごの枠組みを作るための竹を切り出しに行ったことでした。足を踏み入れるのをためらうほどの、うっそうとした竹やぶの中に分け入り、10本もの竹を切りトラックへと積み込みました。全ての作業が終わった生徒の手足は、大きな薮蚊に刺され、真っ赤に腫れていました。この時、とんでもない企画をしてしまったという思いと同時に、なんとか成功させなければならないと実感したのでした。

各々のグループが協力しあって完成したパーツを屋上へ持っていき、慎重に飾り付けを行いました。なかでも、大粒の汗を流しながら、声を掛け合い重く巨大ないちごの吊り下げ作業をしている生徒たちの姿は、企画当初からは想像できないほど生き生きとしたものでした。それにつられるように、ひとり、またひとりと作業に加わり、いつしかクラス全体がひとつになっていました。

そして、本校の美術教諭である本山先生のアイディアから生まれたデコレーション企画は
1年5組の生徒をはじめ、他のクラスの生徒や、先生方の協力を得て完成しました。テレビやラジオ、新聞にも取り上げられ、多くの卒業生に知ってもらうことができました。

あっという間に2日間が過ぎ、長い時間をかけ完成させた巨大モニュメントを片付ける時が来ました。生徒たちは口々に、『もう壊してしまうのかぁ、もったいないよね…。』と言いながら、屋上へと駆け上がりました。その途端、ポツリポツリと雨が降り出し、やがてどしゃ降りの雨へと変わりました。ずぶぬれになりながらも、生徒たちはまったく気にすることなく、黙々と片付け作業を続けていました。

全ての後片付けを終え、なんて意地悪な雨なんだろう…。そう思っていた私に、ある先生がひとこと。『お疲れさま、きっと、この雨は円筒校舎が別れを惜しんで流した、大粒の涙なんだよ。』その言葉で私の心は晴れ渡り、それと同時に、空もまた美しく澄み渡ったのでした。
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2008年1月30日 (水)

【第24回】私の高校生活道上 ちひろ (英語)

あなたの得意なことは何ですか?
あなたが一番頑張ったことは何ですか?
あなたの目標は何ですか?
どれひとつとっても、胸を張って答えられるものがなかった
中学生までの私。

そんな私を大きく変える出来事。
それは、高校二年生の時のある先生との出会いでした。
何の目標もなく、毎日を過ごしていた私に掛けてくれたひとこと。
「大学は楽しいよ。」
その言葉がなぜか、私の心に大きく響いたのでした。

それから初めて受験勉強というものに励みました。
決して勉強が得意なわけでない私は、
やっぱり私が大学なんて無理なことだよ…。
そう諦めかけたことも少なくありませんでした。

そんなある日、その先生は私をあるところに連れていってくれたのです。
それは、私が目標とする大学でした。
その先生は休暇中で鍵のかかっていた扉を
警備員の方にお願いし、開けてもらいました。
大きな講義室を見たとき、私は絶対にこの大学で勉強するのだ。
そう、強く心に決めました。
それと同時に、私は先生になるんだ。
そんな大きな目標を持ったのでした。

そう心に誓ってから10年。
いま私は、10年前に自分自身が来ていたものと同じ制服を着た生徒と共に、
毎日を過ごしています。
そして、ふとした瞬間、彼らの姿に、当時の自分を重ね合わせることがあります。
そして、みんなは10年後、どんな人生を歩んでいるのだろう…と。

いま、私が胸を張って言えること。
それは貴重な高校時代に目標を持つことの大切さや、努力することの意味を
教えてくれた遊学館で過ごすことができたということです。

あなたが、いま胸を張って言えることはなんですか?