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2012年4月26日 (木)

【第228回】 行き交う人々宮永 義博 (英語)

 わたしが遊学館高校で教え始めてから丸3年が過ぎ、この四月から4年目にはいりました。卒業したK.H君がわたしの着任早々に付けた某フライドチキンチェーンの創始者の名前は、今年の生徒たちにも引き継がれ、今も「フライドチキンちょうだい。」と言われることが時々あります。わたしがいつものように困った表情になると生徒たちは嬉しそうに笑って立ち去ります。

 さてこの3年間の間にわたしがほぼ毎日欠かさず続けていることがあります。今回はそれについてお話しようと思います。

 わたしの住まいは金沢市の郊外にあります。山を越えれば富山県という田舎です。わたしはそこから車で市内に行くのですが、実は学校までは行かずに、途中の駐車場に車を置いて、そこから歩くのです。7時ごろに歩き始め、途中の休みを含め、約1時間半かけて学校にたどり着きます。雨の日にはズボンも靴もずぶぬれになることもあります。暑い日には汗だくになることもあります。時には辛くてバスに乗ろうかと思うこともありますが、車で通勤する場合には得られないことが多くあり、そのため歩くことを続けているのです。

 7時に歩き始めてしばらくするとマラソン人のSさんと出会います。東京マラソンに毎年出ている人です。最初のバス停では遊学館高校に勤める前から顔見知りの人と挨拶を交わします。次のバス停に行く前に昔の知り合いと顔を合わせることもあります。わたしが生まれ育った町内の人です。1箇所寄り道をした後再びバス通りに戻り、2番目のバス停で某私立高校の先生と言葉を交わします。次に挨拶をするのは2つのお店の人たちです。まず呉服屋さんのHさんですが、遊学館に娘さんが通っていることを3年前に初めて知りました。それまでも朝の挨拶を交わしていたのですが、わたしが本校に勤務先が変わったことを知り、そのことを教えてくれたのです。次いで魚屋さんのOさんです。御主人も奥さんも、いつも必ず、「行ってらっしゃい。」と元気付けてくれます。
 さて昨年は3つ目のバス停に着くころに後ろから「お早うございます。」という声をかけられることがありました。サッカー部のH君かK君でした。H君は、1年の時にこっぴどく叱ったのですが、それを根に持つことなく、きちんと挨拶してくれました。4つ目のバス停に向かう途中の横断歩道では交通安全指導員のYさんに挨拶をします。彼とはボランティア大学の観光コースでの受講生仲間でした。さらにしばらく行くと、Kさんと会います。もう退職し、健康のために朝の散歩をされているそうです。わたしと2,3語の言葉を交わすためにわざわざ足を止めたり、時には通りの向こうから横断歩道を渡ってきてくれたりします。
 昨年は浅野川大橋を渡るころ、「先生、お早うございます。」と二人の女子バレー部の生徒が追い越して行きました。また交差点で、全く授業を担当していない生徒と隣りあわせで信号待ちをすることもありましたが、きちんと挨拶をしてくれ、「気をつけて行けよ。」と言うと、「はい。」と元気な声が返ってきました。
 交差点を過ぎてからはしばらくバス通りから離れます。白鳥路に入る手前のタオル屋さんではそこの女主人らしき人や配送担当の人と挨拶を交わします。
 白鳥路にはトイレと休憩所があり、そこで一休みします。掃除担当のおばさんたちと天気状況などを話しているうちに中学生たちが通り過ぎて行きます。わたしも腰を上げて学校へ向かいます。途中では金沢の三文豪を始め、いくつかの彫像たちがわたしたちを見守ってくれています。春には桜が、夏には蝉が、秋には紅葉が季節を教えてくれます。
 白鳥路を抜けると再びバス通りです。何人もの生徒たちが自転車でわたしを追い越して行きます。大体は黙々と、ときどき何人かは「お早うございます。」とわたしに声をかけて学校へ急ぎます。わたしはゆっくりと行きます。昨年の春から途中の神社で手を合わせ、東北の人たちに早く笑顔が戻ってくることを祈ります。バス通学の生徒たちもわたしを追い越して行きます。「お早う。」と言う回数がどんどん多くなり、やがて学校に到着です。

 こうしてあらためて考えてみると、わたしは朝だけでもなんと多くの人々に出会っているのか、と驚くばかりです。車に乗って、点から点へと移動している限り、こんなに多くの人々と接することは不可能です。わたしが有難く思うのは、それらの人々がわたしの挨拶に応じてくれることで、わたしは自分の存在=自分が生きていることを確認できるということです。それがわたしにこれからも生きていく元気を与えてくれているのです。もちろん生徒たちの「お早うございます。」に一番元気付けられるのは言うまでもありません。今後も体力のある限り歩き続けようと思っています。