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2010年12月 1日 (水)

【第161回】リンゴの皮むきK. N. (数学)

そろそろ、リンゴの美味しい季節になった。
このあいだ、無性にリンゴが食べたくなって、一袋買ってきた。
食べようと皮をむいていて、ふと思った。
皮の切れ端は、どうしても「平ら」にできない。
皮の切れ端を、まな板の上で平らに置こうとしても、どうしても「ブカブカ」する。
そのとき学生時代に勉強したことを思い出した:
「球面は、点の間の距離を保ったまま、平面に写すことができない」
要するに、球面と平面はまるで違うのだ。

19世紀にガウスという数学者がこのことを証明した。
例えば、地球も球体なので、距離を保ったまま平面にすることはできない。
だから、「距離が等しい」という意味での正確な(平面)地図は存在しない…
確か、そんなことを(もちろん数式と一緒に)習った気がする。

では、リンゴの皮を途中で切らないようにむいて、
(例えばまな板の上に)置いたら、どんな曲線になるだろう。

実際にやってみた。
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切り方が下手なせいで、きれいな曲線にはなっていないが、
幅が一定になるよう上手に切ると、この曲線は「クロソイド曲線」と呼ばれる曲線になる。
なお、皮がねじれているのは、球面を平面に写せないことの反映だ…
いや…腕のせいかもしれない。

ちなみに、高速道路のインターチェンジなどでよく見かける「くるくる廻る道路」も、
クロソイド曲線である。円(の一部)ではない。
円を使って道路を設計すると、急なハンドル操作を強いられ、危険が大きいが、
クロソイド曲線を使うと、運転がスムーズで、安全に走行できるそうだ。
ジェットコースターのカーブもクロソイド曲線だそうだ。
円を用いると、乗客にとって危険なことが起こることがあるらしい。

この「クロソイド曲線」を数式を使って表すと、とても複雑なものになるので、ここではしない。
でも、確かに数式で表すことができて、その性質を数式を使って調べることができる。
そう、リンゴの皮の描く曲線に数式があるのだ。

あらゆるものが数式で表されるとは思わない。
でも、リンゴの皮にすら数式があるのだから、きっと、たいていのものには数式があるに違いない。
ただ、その数式を見つけるのは難しい。
実際、リンゴの皮の描く曲線の数式を求めるのは、とても難しい。

日常生活に数式が現れてくることは少ない。
でも、数学的な現象は存在している。
意識して働きかけないと、なかなか現れてこないのが難点だが、確かにそこにある。
数学の現象は、目では見えないし、手で触ることも、耳で聞くことだって、できない。
でも、数式という表現を通して、その存在を知ることができる。

数学を学ぶということは、数式を通して、数学的な現象に対する感覚を育てることでもあるのかもしれない。
皮をむいたリンゴを食べながら、ぼぅっとそんなことを考えていた。