【第947回】「君たちの「今」はタイムカプセル」渡辺 祐徳 (英語)
「スカートが短いぞ!」「化粧を落としなさい!」「授業に集中しなさい!」
先生たちから毎日のように言われる注意は,正直ウザいと思いますか?
女子のスカート丈を短くしているのを注意されたり,メイクのことで声をかけられたり。「はーい」とその場では直すふりをして,先生がいなくなったらすぐ元に戻す……という経験,心当たりのある人もいるでしょう。
正直に言うと,注意する側の教員も,その場ですぐに皆さんが100%納得して,生活態度をガラッと変える,つまり注意した効果がすぐに現れるとは思っていません。人にはそれぞれの発育のスピードや,その時々の周囲との関係,抱えているストレスがあるからです。すぐに言動を変えられないのは,ある意味で自然なことでもあります。
では,なぜ先生たちは,煙たがられると分かっていながら,毎日まいにち声をかけ続けるのでしょうか。
実はそれは,皆さんの未来に向けた「種まき」なのです。
かつて,授業中に寝ているのを注意すると「なんだと!」と突っかかってくる男子生徒がいました。多くの先生とトラブルを起こしながら,お世辞にも「模範的な生徒」とは言えないまま卒業していきました。
しかし数年後,少し大人になった彼がふらりと学校に遊びに来たのです。あの頃の反抗的な態度の理由を聞くと,彼は照れくさそうにこう言いました。
「あの時は,まだ自分が幼かったんですよね」
彼は卒業したあと,時間をかけてあの頃の自分を振り返り,反省できるようになっていました。投げられた言葉の意味を,未来の自分がちゃんと受け取っていたのです。
私はこれを,「教育のタイムカプセル」だと思っています。
今自分に向けられている言葉はすぐには理解できないかもしれないし,どう行動すればいいかも分からない。無意味に感情的になってしまうかもしれない。
でもその言葉が将来,タイムカプセルを開けるように,自分にとって生きたものになるということがあるのです。
私自身も,高校2年生のときにタイムカプセルを埋められた一人です。
当時,東京から赴任してきた男性の英語の先生がいました。隣のクラスから「分からんだと?分からんと言うな!」というドスの利いた大声が聞こえてきて,なんて理不尽で怖い先生なんだとビクビクしていました。
翌年,実際にその先生の授業を受けることになり,生徒が「分かりません」と答えるたびにあの大きな声が響きました。当時は「分からないから分からないと言っているのに」と軽い反発を覚えたものです。
しかし,自分が教師になってから,その言葉の本当の意味がよく分かるようになりました。
単語の意味は辞書を引けば分かります。教科書の訳も,調べればヒントはたくさん出てきます。先生は,その少しの努力すら惜しんで「分からない」の一言で思考を止めてしまう生徒に対して,歯がゆい思いをされていたのです。
「少しの努力を惜しまなければ前進できる,その一歩を踏み出せ」という,先生なりの熱いエールだったのだと,自分が教える立場になってよく分かるようになりました。
だから今,私は形を変えて,自分の生徒たちに同じ種をまいています。「辞書を引けば必ず分かることがある。勉強は調べればたくさんヒントが出てくる。その一歩を踏み出せ」と。
今,もし皆さんが先生や親の言うことにイライラして,反発したくなっていたとしても,そんな自分をダメだなんて思わないでください。
今すぐ完璧な良い子にならなくていい。大人の正論を今すぐ100%理解できなくていい。
ただ,皆さんが「うるさいな」と思いながら聞き流しているその言葉は,いつか未来の皆さんが開けるためのタイムカプセルとして,静かに心のなかに埋められています。
何年か経って,ふとした瞬間に「あぁ,あの時あの先生は,こういうことを言いたかったのかな」と思い出す日が来るでしょう。
みなさんがそれぞれのタイムカプセルをいくつも開けられる時が来たら,今度はその種をまいてあげられる人になってください。
その時は,私たち教員の「種まき」も大成功なのです!
