« 【第742回】「負けて知る。」 | メイン | 【第744回】「U-18全日本フットサル選手権大会を終えて」 »

2022年8月18日 (木)

【第743回】「それって何の役に立つん?」K. M. (英語)

 私は数学が苦手だ。思い返せば小学1年生の通知表には「計算が苦手」というようなことを書かれているのを見た両親が絶句していた。当時母は小学校の教員で父は特別支援学校の教員。父は小学校での勤務経験もあったのだがそんな2人も小1の段階でそんなコメントを貰った生徒を見たことがないと…。
 そんなだから中学生になっても当然数学なんて理解できるはずもない。その時には中学校で理科を教えるようになっていた父は時々私の勉強を見てくれていた。が、私があまりにできなさすぎて父は絶望と失望、そして怒りを爆発させてある日「もうお前には教えへん!!」と言って二度と私に勉強を教えようとはしなくなった。勤務校では温厚な教員として知られていた父だったが、わが子の話となると別だったようだ、父がブチ切れたことに私は驚いた。
 けれども私は思っていた。必死になって数学なんてやる必要があるのだろうか。父は熱くなりすぎじゃないだろうか。だから数学ができなくてもさほど気に病むこともなく、高校受験は内申書と英語と作文、面接の4つだけで済む高校を選んだ。だって私の人生に数学は必要ないから。
 高校に行っても同じ調子だった。とにかく国語と英語が得意だったので卒業後の進路は文系の学部しか考えていなかった。定期試験で数学の赤点を取っても進級にかかわるほどのこともなかったのであまり気にしていなかった。もともと大学は一般入試で文系の学部を受験するつもりだったので内申書を気にする必要もなかったのだ。得意な国語と英語の点数を上げるために時間を使う方が有益に思えた。大手予備校の模擬試験で200点満点中5点程度しか取れなくても平気だった。だって私には国語と英語があるもん。数学なんていつ使うん?
 卒業後は関西の私立大学の文学部に進学。大学の文学部の授業に数学に関するものは一切なく、いよいよ私の数学不要論は確固たるものになっていった。なーんや。やっぱり数学なんていらんやん。簡単な計算さえできたら生きていけるし。
 確かに大学での4年間はそうだった。が、就職活動をしようとして驚いた。一般教養に数学の問題が出る??数学って一般的な教養の一つやったん??私は一般的な教養がないまま大人になってしまったってこと!?
 そうなのだ。数学は大人として働くために必要な教養の一つだったのだ。私は人生経験も働いた経験もないくせに、小さい頃から「数学なんて人生の何の役にも立たない」と勝手に決めつけて苦手なものから逃げていただけなのだ。そしていよいよ大人として社会に出ようという時に思い知らされたのだ。数学は必要なのだと。
 先日『大河への道』という映画を観た。江戸時代に伊能忠敬が日本全国を歩いて測量し日本地図を作ったという話は私も知っているが、それは間違いだったということを中井貴一さん演じる1人の千葉県の市役所職員が気づいてしまうことから始まるお話だ。
 その市役所職員が松山ケンイチさん演じる部下と海岸線を歩いて測量するシーンがある。そこで彼は測量には三角関数が必要だとその部下に言うのだが、部下は三角関数が理解できずに話が通じない。その部下も私と同様数学から逃げて大人になったくちだったのだろう。
 去年少し話題になったSNSの中にハーバード大学の生物学者さんが学生の頃に電車の中で数学の問題集を開いていたら見知らぬおじさん(どうやら職業は大工さん)から「三角比はやっとけ。」と言われたというエピソードがあった。その生物学者さんは当時数学が苦手だったそうだが、今となっては三角関数を毎日使っているそう。それに対するコメントなどを読んでみても、やはり大人になって自分が就いた職業で思わぬ知識が必要となり慌てたり、あるいはその知識があってよかったと思ったりすることが分かる。
 苦手なものからは逃げたい。その気持ちは避けられない。けれどもその苦手なものが必要かそうでないか。それを子どものうちに決めつけてしまうのは時期尚早だ。人生始まったばかりの若造にわかることなんてほんの一握りのことなのだ。タイムマシンがあればあの頃の私にそう言ってやりたい。
 けれどもそんなことはできない。せめて現役の子どもである皆さんと私の2人の子どもにこの話を送りたい。