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2015年11月19日 (木)

【第401回】 苦い思い出は経験値へT. M. (理科)

 大学時代に必須科目の量子力学Ⅰを2回単位落とした経験がある。初年度は教授が話す内容が全く理解できず、大学の授業の単位の取り方も分からず受講した。
 初めて単位を友達と違って落とした時、自分の勉強に対する甘さがあることを自覚し、後期の量子力学Ⅱは必死になって本を読んで単位を獲得した。次の年、量子力学Ⅰを1つ学年下の学生と聞く教室の違和感はあったが、卒業するために必要だと努力をした。
 それでも何故か単位を落とした。
 教授に抗議に行ったが、教授は「高宮、お前は基本が全く分かっていない」とその一言でその場は帰らされた。教授がいう基本とは何か分からなかった。本当に分からなかった。
 その当時はまだ、小柴昌俊さんが自然に発生したニュートリノの観測の成功からノーベル物理学賞を受賞する前で、素粒子の存在は『もっとも確からしい』という、99.9%は確かであるが、断定することは難しいという推定の時代であった。私は『確からしい』という物理学で頻繁に使用する言葉が理解できず苦戦をしていた。素粒子は論文内に多く存在し、授業の教材にも計算で証明され、確かに存在しているのもだと私は思い込んでいた。
 存在する素粒子は、全世界で観測することが出来ず、物理学者は存在の断定を誰よりも先は発表したい気持ちが研究者にあった。山ほどいる研究者の一人が教授であったのだ。私はまだ、未熟であり、『確からしい』という言葉のもつ深い意味も分からなかった。
 今年、ニュートリノの振動の発見により質量があることが認められ、梶田隆章さんもノーベル物理学賞を受賞した。
 まだまだ、未知の世界が多い物理学の世界で『確からしい』という言葉が『確かだ』になることを私は楽しみにしている。ただ、『確からしい』という言葉は苦い思いが脳裏に浮かび、あの頃を思い出すので嫌いだ。
 遊学生はこの先、勉強・部活動・人間関係で何か悩み・分からないときが来る。そんなときは、大人や友達に相談しよう。何か力になるかもしれない。
 大人は人生でその経験を何度も歯を食い縛りながら乗り越え、悩んだ経験値は生徒・学生より高い。悩みや分からないことは一人で考え込まないで欲しい。

 あの時の私は誰に相談したかな。