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2019年11月 7日 (木)

【第602回】「体で覚える数学」K. N. (数学)

 「体で覚える」という言葉がある。「体験して身につける」という感じの意味である。

 数学という学問は「体で覚える」のが難しいと思う。どちらかといえば、頭の中の学問で、実験したり、体を動かしたりして学ぶものではないからだ。でも、数学にも「体で覚える」部分がある。

 授業中、どうしてそんな話になったのかは忘れたが、
「紙を半分、半分と折っていくとき、7回折ることはできないよ」
と言ったことがある。言われた生徒は半信半疑で「7回なら簡単に折れるよ」と言っていたが、実際にやろうとはしなかった。

 実は、小学生のころ、友達と紙を7回折ろうと実際にやってみたことがある。
 長いほうが折りやすいだろうと、紙を切ってつなげ、1メートルくらいの長さにし、半分に折っていった。そして、5回か6回あたりで、もう折れなくなった。思ったよりすぐに、短く厚くなり、折り曲げるのに力も必要とした。
 この事実を、計算で確かめることもできる。
 7回折ると、もとの紙の厚さの100倍を超える厚さになる。仮にもとの紙が0.1ミリであったとしても、1cmを超える厚さになる。これを「折る」のはたぶん無理だ。

 これは、私の「体で覚えた」数理現象の一つだろう。実際にやってみた結果なので、かなり自信をもって主張できるし、数学の計算で確かめて「なるほど」とも思える。何より、二度と忘れない。

 そういえば、高校生のとき、数学の授業で、大量の数式をグラフ用紙に書け、というプリントが課題に出たことがある。
 一時間をつぶして書き上げたとき、グラフ用紙に「ドラえもん」が現れていた。
 私が抱いている「計算したら、何か『いいこと』がある」という素朴な思い込みは、たぶん、そのときに刷り込まれた。

 数学ができるようになるのは難しいことだが、数学を好きになるのは、こんなふうに数学を「体で覚えた」ときなんじゃないだろうか。
 授業でそれを実現できるといいのだが、時間やカリキュラム、手間の問題で、なかなかできないでいる。いつか、そんな「体で覚える」授業ができたらいいなと思う。