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2013年5月30日 (木)

【第281回】 「旬」中村 ゆかり (国語)

 「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」と素堂の句にありますが、さわやかな陽光のもと、目にもまぶしい青葉が「旬」の季節を迎えました。京都では秋の紅葉と並んで、床に映った5月のもみじを愛でる門跡もあるほどです。「旬」とは「季節を先取る<はしり>と呼ばれるもの、素材が一番美味しい時期」といった意味があります。<はしり>と呼ばれるものは希少性も値段も高くなりますが、日本ではこの季節の初鰹に代表されるように「初物を食べると75日寿命が伸びる」といわれ「旬」を食する習慣があります。四季に恵まれたこの国は、折に触れて私たちを楽しませてくれる花や食材があり、改めてそうした環境の中で生活できることの「有り難さ」を実感します。

 先日、サッカー界の貴公子デイヴィッド・ベッカム選手が引退を表明しました。まさにサッカー現役選手としての「旬」を終わらせようとしています。スポーツ界にありながら、彼ほど折に触れて世界を賑わした人物はいないのではないでしょうか。髪型、ファッション…職業に直接関わらないプライベートに至るまで。ともあれ第一線で活躍することは並々ならぬ精神力を必要としたことと思われます。そんな貴公子もラストゲームでピッチを去るときに、その目には涙がありました。人は一つの節目に立たされるとき、これまで歩んできた「道」を振り返るとともに、心中には様々な思いを抱くのでしょう。そして苦しかったことも、嬉しかったことも、すばらしい思い出として「一生の宝物」になるのだと思います。

 時はまさに総体・総文目前!一年生は初めての、2年生は昨年の思いを胸に秘めての、3年生は高校生活を総括する一つの節目としての大会や活動になることでしょう。ベッカム選手だけにかかわらず、人間には必ず一線を退く日がやってきます。その時にどんな思いを抱くかは、それぞれの道に「どのように取り組んできたか」にかかっていると思います。10代の一番輝かしい「旬」のときを、力いっぱい謳歌してほしいと思います。
 『 がんばれ遊学生!!』