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2011年3月 2日 (水)

【第173回】「ちごげ」考Mi. Y. (英語)

 わたしが遊学館高校で教え始めてからほぼ2年が過ぎました。
着任早々に某フライドチキンチェーンの創始者の名前がわたしのあだ名になり、
今も「フライドチキンちょうだい。」と言われることが時々あります。
わたしが困った表情になると生徒たちは嬉しそうに笑って立ち去ります。

 さてわたしは英語を担当しているのですが、自分では言語学が専門だと考えています。
したがって英語だけでなくフランス語と日本語にも非常に関心があります。
そこで今日はフランス語と日本語の2つの全く異なる言語について共通する言語現象を取り上げてみたいと思います。
実はわたしは遊学館高校に留学中のアメリカ人にフランス語と日本語で話す機会が与えられているのです。

 タイトルにあるように、取り上げる日本語は金沢弁です。
まずこの言葉について考えて見ましょう。

 「ちごげ」は、「あなたはまちがっている。」あるいは「それは違います。」の意味で用いられます。
わたしはこの語がもともとは「ちがうがい」であっただろうと考えます。
すなわち動詞「ちがう」に終助詞「がい」(標準語の終助詞「わい」のw音がg音に変化したもの)が付いたものであろうと考えます。

ところでこの「ちがうがい」をローマ字に書き直すと次のようになります。
子音字+母音字の組み合わせから3つの部分に分けてみました。

   ti  gau  gai

 ここで注目したいのは2つ目の gau と3つ目のgaiです。
なぜこれら2組の組み合わせが興味深いかと言うと、もしこれらをフランス人が読めば、
それぞれ「ご」「げ」と読むことになるからです。

例えば「ゴーフル」というお菓子は gaufre と書きます。
またみなさんがきっと飲んだことのある「カフェ・オ・レ」の「オ・レ」の部分は au lait と書くのです。
もちろんフランス語でも昔は au は「アウ」、 ai は「アイ」と読んでいたと思われます。
しかし現代フランス語ではそれぞれ「オ」、「エ」の読み方になるのです。
つまり私達金沢人は tigaugai を「ちごげ」と発音することでフランス語に於ける言語現象と同じ現象を体験しているのです。

 上記のような視点からいろいろな言葉について考えてみると、英語の単語に多様な読み方のあることが理解できます。
それはまさしく漢字がいろいろな読み方を持っているのと同じです。

 先日3年生のN君と同じバスに乗り合わせました。
彼はわたしが2年間英語を教えたクラスの生徒で、3年生の夏休み中にわたしが行っていた単語教室にも参加していました。
彼の進路について話しているうち、わたしは自分の関心事である言語学について話していました。
彼はじっと聞いていてくれました。
わたしは彼のような生徒と出会えた自分が幸せだと考えています。
そしてそのような機会を与えてくれた遊学館高校に感謝しています。