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2010年6月30日 (水)

【第139回】アシュリー道上 ちひろ (英語)

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アシュリー

前回(第99回)のコラムでカナダからの留学生であるアシュリーについて書きました。あれから、1年近くが経ち、別れの時が近づいてきました。
日本に来た当初は、日本語が全く分からなかったのですが、日々向上する彼女の日本語力には驚かされるばかりです。今では、英語を一切使うことなく自然にコミュニケーションを取っています。そんな彼女を外国人として接しているクラスメートは一人もいないでしょう。

 とはいえ、何の障害も試練もなくここまできたわけではありません。
いつも明るく前向きで、努力家である彼女であっても日本独特の文化が理解できず、クラスメートとの関係がこじれ、涙を流すこともしばしばありました。ある時、クラスの中で、小さなもめごとが起きました。

 「アシュリーが自分たちの言うことを理解してくれない。」
「もうこれ以上私達にはどうにもできない」そんな言葉が飛び交っていました。
そんな会話の中で、ひとりの生徒が言いました。
「みんな、私達がアシュリーの立場だったら、自分の思いを英語でちゃんと伝えられる?」
「伝えようとしても正しく伝える事が出来ないのに、ひとりも日本人がいない中でそんなに強くいられるの?」といったものでした。

 その瞬間、生徒達は無言になり「そうやよね、あたしアシュリーにもう一度メールしてみる。」
「私も電話してみるし、それでも上手くいかなかったら、先生を含めて英語と日本語でみんなで話し合えばいいよね。」などと前向きで彼女を思いやる言葉がたくさん出てきたのです。

 彼女の気持ちを汲み取ろうとする生徒たち、みんなと仲直りがしたいという気持ち、そして日本文化に少しでも馴染もうと努力するアシュリーのこころがひとつになり問題は自然に解決へと向かったのでした。

 あの時、両者がお互いに歩みよることなく、もうどうでもいい…となっていたなら、
彼女にとっての日本での生活は大きく変わっていたかもしれません。
このように、彼女にとってこの留学は、決して楽しいばかりではなかったはずです。

 別れの日が近づいたある日、私が「アシュリー、あと一月だね」と言うと、「まだ帰らないから別れのことは言わないで。」と答えたのでした。
そんなさびしそうな表情の彼女を私はいとおしく感じました。
今の彼女にとって、一番辛く悲しいことは、大好きになった日本を離れ、何よりも日本で出会ったかけがえのない友人と別れることなのです。しかしながら、アシュリーが感じているこの悲しみは、いかに日本での生活が充実し、思い出深いものであったかを物語っているのではないでしょうか。

 アシュリーが帰国の途につき、あの明るい笑顔が教室で見られなくなった時、私たちはこの別れのさびしさを強く実感するのかもしれません。