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2008年11月 5日 (水)

【第62回】デコレーション奮戦記道上 ちひろ (英語)

担任:『みんな、学園祭企画で、この円筒校舎をデコレーションケーキにしない?』
生徒:『・・・・。』(この先生、何を言っているんだろう、という雰囲気)
担任:『みんなが勉強しているこの校舎は54年前に建てられて、それが来年取り壊されるんだよ。だから感謝の気持ちを込めて、バースデーケーキみたいに飾り付けしたらどうかなぁって思って。』このように、生徒たちの協力が得られるのかもわからないまま動き始めた企画でした。

牛乳パックの回収を全校生徒に呼びかけ、2500枚もの牛乳パックをつなげた壁面の生クリーム、チョコレート板に見立てられたメッセージボード、直径2メートルのいちご。これらの巨大なパーツを作るのに要した時間や、生徒たちの労力は想像以上のものでした。役割ごと、グループに分かれ汗とペンキまみれになりながらの準備が続きました。

その中で最も印象深かったことは、猛暑の中、牛腸先生、女子生徒2名と共に、いちごの枠組みを作るための竹を切り出しに行ったことでした。足を踏み入れるのをためらうほどの、うっそうとした竹やぶの中に分け入り、10本もの竹を切りトラックへと積み込みました。全ての作業が終わった生徒の手足は、大きな薮蚊に刺され、真っ赤に腫れていました。この時、とんでもない企画をしてしまったという思いと同時に、なんとか成功させなければならないと実感したのでした。

各々のグループが協力しあって完成したパーツを屋上へ持っていき、慎重に飾り付けを行いました。なかでも、大粒の汗を流しながら、声を掛け合い重く巨大ないちごの吊り下げ作業をしている生徒たちの姿は、企画当初からは想像できないほど生き生きとしたものでした。それにつられるように、ひとり、またひとりと作業に加わり、いつしかクラス全体がひとつになっていました。

そして、本校の美術教諭である本山先生のアイディアから生まれたデコレーション企画は
1年5組の生徒をはじめ、他のクラスの生徒や、先生方の協力を得て完成しました。テレビやラジオ、新聞にも取り上げられ、多くの卒業生に知ってもらうことができました。

あっという間に2日間が過ぎ、長い時間をかけ完成させた巨大モニュメントを片付ける時が来ました。生徒たちは口々に、『もう壊してしまうのかぁ、もったいないよね…。』と言いながら、屋上へと駆け上がりました。その途端、ポツリポツリと雨が降り出し、やがてどしゃ降りの雨へと変わりました。ずぶぬれになりながらも、生徒たちはまったく気にすることなく、黙々と片付け作業を続けていました。

全ての後片付けを終え、なんて意地悪な雨なんだろう…。そう思っていた私に、ある先生がひとこと。『お疲れさま、きっと、この雨は円筒校舎が別れを惜しんで流した、大粒の涙なんだよ。』その言葉で私の心は晴れ渡り、それと同時に、空もまた美しく澄み渡ったのでした。
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