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2008年5月21日 (水)

【第39回】天は…井口 一生 (国語)

「天は二物を与えず」という慣用句があります。
広辞苑には「一個の人間は、そう幾つもの才能や長所を持っているものではない」とあります。たしかに人間には、人生において発揮できる能力は数多くありません。だから、「天は二物を与えず」を「ひとつこれだという自分の誇れるものを見つけたら、それを極めよ」というふうに僕は解釈していますし、この言葉の意味を具現化した「自分の一番を見つけよう!」は、本校のモットーでもあります。

 ところが、例外はあるものです。

 第35回目の山本雅弘先生のコラムをご参照願いたいのですが、野球部の一期生が、今春大学を卒業し社会人として巣立ちました。その12名のうちのひとりから、この3月末に電話がありました。

 「先生、おかげさまで無事、早稲田を卒業しました。ありがとうございました!」

 山本先生が、野球人として挫折してしまったと心を残されている生徒の一人からです。
 僕は、彼の2年生の時の担任でしたが、卒業してからも、彼は、時折近況報告をしてくれましたし、母校の野球部の試合の応援にも顔を出していました。そのつど、最後には「ありがとうございました!」とさわやかな挨拶を残します。僕はいつも「何もしてやれてないのになあ」と恥ずかしい思いをしています。

 本校の野球部は「〈感謝〉の気持ちを常に持って、練習に試合に臨め!」と教えています。「今、自分があるのは、自分を支えてくれている多くの人たちのおかげであり、その人たちへの〈感謝〉の気持ちでプレイする」という、すがすがしい教えです。彼は、卒業してもなお、その教えを忘れずに実践しているのでしょう。山本先生の教えは、野球を超越して、彼の心に生き続けています。

 天は、彼に、甲子園大会に出場できるまで努力する才能と、人間としての才能「人格」を与えたのです。もっとも「人格」は、教えられたのち、自分自身で獲得したとも言えるでしょう。

 今月、彼は、遊学館高校出身者初の弁護士を目指して、司法試験に挑戦します。近いうちに、また彼から、電話がかかってくると思います。

「先生、おかげさまで無事司法試験に合格しました。ありがとうございました!」

きっと天は、彼に三物目を与えますね。